理想の会社−小さな巨人

かつて就職・転職する際は,安定を求めるあまり公務員や上場企業がもてはやされましたが,
時代は大きく変化しました.バブル期以降,大会社の倒産は珍しいことではなくなり,昨今は
地方自治体までもが破綻する時代となりました.世界的には債務超過で国自体が破綻してい
る例もあります.安定神話は終わりました.

では,企業の実力や体力は何で計れば良いのでしょうか? 当社は昆虫に関する仕事もして
いますが,自然や昆虫には様々な実社会へのヒントが隠されています.昆虫は様々な進化の
戦略を持っていて,大きさ,色彩,生活空間などを多様化して分化・進化しています.企業が
大きくなり,利益を上げれば,目立ち,動きが緩慢になり,出る杭は打たれ,適応力がなくなり,
競合他社との熾烈な戦いを強いられます.本当の意味で勝ち残る企業はごく一部で,多くは
更に強い同業他社に吸収されるか,致命傷を負って息絶えていきます.昆虫もまったく同じで,
美しいものや目立つものは受難の運命を辿り,真に強いもののみが生き残っていく,まさに自
然淘汰の世界なのです.

昆虫の世界には,一般には知られていない驚くべき世界があります.美しい蝶や格好良いクワ
ガタと競合することなく,棲む場所も,色も形も生活スタイルも変えて繁栄している虫たちがいま
す.メクラチビゴミムシという地中に棲む甲虫がいますが,彼らは多くの生物が進出できない地
下の岩の隙間などに棲み,微小な昆虫などを捕食して一生を過ごします.地下に潜るため体を
小さく平たく進化させ,光の届かない地中では不要な複眼や翅,体色を退化させました.一方
で陸上の昆虫が持たない感覚毛という器官を進化させ,産卵数が減り,寿命が長くなるなどの,
恐るべき進化を遂げたのです.

世界には小さくとも優良な企業がたくさんあります.特許やノウハウはいずれ広く知られるよう
になりますが,参入が難しいマーケットや特殊市場へ展開できる会社,真似のできない製品を
生み出せる会社こそが,実力のある会社ではないでしょうか.そういう点では規模や知名度は
会社の中味とは関係なく,むしろ企業としての柔軟性や発想力が求められ,社員の才能を開
花させることのできる会社が,現代の真の優良企業ではないでしょうか.

当社はそのような会社になりたいと願っています.人類は早くに宇宙に出る夢を叶えましたが,
深海や地底はそれ以上に開発が難しいと言われています.しかし地底を自由に闊歩するメク
ラチビゴミムシがいます.蝶のような美しさやクワガタのような格好よさはありませんが,そこ
には確かに進化した究極の適応と無限の可能性があるのです.小規模でも無名でもいい,大
企業が参入できないニッチ市場でオンリーワンを目指す,そんな小さな巨人になりたいと思っ
ています.


  氏名: 川井 信矢  Kawai, Shinya
  役職: 川茂株式会社 代表取締役社長
    
  昆虫文献 六本脚 代表
  出身: 東京都世田谷区
  生年: 1963年(2011年現在48歳)
  趣味: 昆虫の採集・蒐集・分類
  所属する会:  日本甲虫学会会員
  川井個人のサイト
  世界のコガネムシ研究者のサイト及び論文一覧