すばと泡盛の沖縄本島

  〜そばは旨いが虫が採れない記

 2001年9月29日〜10月7日

 「久々の採集記である」というのが決まり文句になって
しまった。理由は色々あるが、あまり毎回書いても飽きら
れてしまうので、このくらいのペースがちょうど良いのか
もしれない。今年は春先から、事務局をしているコガネム
シ研究会の編集の仕事が忙しく、ほとんど採集に出られ
ない日々が続いており、毎年必ず春〜夏の間に取ってい
た長期休暇も、気がつけば秋になっていたため、慌てて
取ることにした。10月1日〜5日を休むことで、実際は9月
29日〜10月8日の10連休になる。行きたい所は色々あっ
たが、とりあえず今話題のFIT(Flight Intercept Trap)を南
の島で試してみようと思ったが、八重山と奄美は先人がす
でに試しているので、自然と沖縄本島が候補地に上がった。
それ以外にも、昔から一度ヤンバルエンマコガネを野外で
見てみたいという希望があったり、アマミコブスジコガネの
沖縄ラベルを持っていないなどの理由も本島選定の理由
となった。

 ところで、虫屋の皆さんなら沖縄そばは良くご存知であろう。内地で「そば」といえば
日本そばをさすが、沖縄ではこの独特の沖縄そばである。「すば」とも言うこの食文化
は、地方ごとに独特の変異を見せ、ラーメンの種分化のように1つとして同じ味の店は
ないというほど変異が激しく楽しめる。どこでもある上に単価も安く、麺好きの私として
は沖縄採集旅行の大きな楽しみの一つとなっている。今回は沖縄本島のすばレポート
を中心に、虫の話などを記してみたいと思う。

9月29日(土)
 今年は台風の当り年のような感じがあったが、運良く近くに台風はいなかったものの、
沖縄本島周辺は折からの活発な前線の活動の影響で、天候が心配された。那覇行き
の飛行機は多少気流の悪いところも飛んだが、徳之島上空あたりでは視界も良く、与
論、伊平屋と見えたと思ったら、あっという間に到着となった。同じ便に筑紫哲也が乗っ
ていて、ほとんどの人が気が付いていないようであったが、降りるタイミングが同じくら
いだったので、氏の後をつけるように歩いていたら、声も喋り方もテレビと同じであった
し、TBSの紙袋を持っていたので同定間違いはなさそうであった。
 さて、レンタカーを借りるとすでに3時をまわっていたので、まずは空港近くの瀬長島で
篩いをやることにした。ここは、行き帰りの飛行機の時間調整に採集をするにには打って
つけの場所で、しかもケシマグソの密
度は濃い。島は小さくあっという間に1
周してしまい、ここしか篩うところはな
い、という場所に篩いをかますと、簡単
にケシマグソ2種を得ることができた。
サキシマケシとタイケシがちょうど半々
くらいで、前者はテネラルが多いようで
あった。
 1時間ほど篩ってから、買出しをして、
空港近くの「すば屋 うるかそば」でそば
付きのトーフチャンプルー定食を食べた。
チャンプルーの味はとても旨く、ゴーヤ
が季節でないので無かったのが残念
であった。そばは付属の小さなもので
あったが、あっさり系の深みのある味で、なかなかであった。
 夕方から降り出した雨は、国頭を目指す道々ずっと降り続き、野原についたら灯火を巡
ってマルバネ探して・・・という私の淡い希望を無残にも打ち砕いたのであった。雨の音が
うるさい車内で、そのまま就寝。

9月30日(日)
 車が狭くてよく眠れなかったが、なんとか朝になり、雨も上がったので、早速トラップを仕
掛けに出かけた。まずはFITをかけながら、西銘岳周辺を目指す。車内の鶏がらと羽毛が
臭いを発しはじめていたので、急いで掛けまくる。
しかし、ポイントを吟味しながらなので、とても時間
がかかり、気がつくと夕方になっていた。雨は時折
激しく振り、全身ずぶぬれで、昨夜熟睡してないこ
ともあり、宿に泊まることにした。マルバネ屋の定
宿「やんばるくいな荘」に投宿。左のような名刺が
置いてあり、この大歯がただならぬ大きさであった
ので、夜間採集に行く気持ちが盛り上がり、夕食を
慌てて掻き込んだが、さて出かけるかと思った頃、
バケツをひっくり返したような雨となり、採集は断念、泣く泣くグラスにトラップ用の泡盛を
ついだのであった。それにしても、やんばるくいな荘の1泊2食で4500円は、21世紀の日
本の物価とは思えなかった。

10月1日(月)
 朝からFITの回収に出かける。早速ヤンバルエンマが1頭落ちていた。幸先が良い。デカい
アマミエンマが、遠目にトビイロセンチに見えてドキっとさせられるが、他にはウシヅノエンマ
程度で良いものは落ちていなかった。その
後、ネクマヂチ岳へ。苦労して登山口を見
つけ、FITをかける。夕方の便でうちの奥
様が来るため、採集を中断して急いで那
覇空港まで迎えに行く。途中遅めの昼食
を、大宜味村の「前田食堂」でとる。午後2
時半くらいなのに、店内は混んでいて、そ
の人気の高さが伺える。人気メニューの「牛
肉そば」を注文。もやしと牛肉が大量に乗
っていて、麺になかなか到達しない。総合
的には旨かったが、もやしと牛肉の炒めた
汁がスープに混じって、沖縄そば独特の澄
んだスープではなかったところが、少し残
念。でも、旨かった。\550-なり。
 その後、奥様を那覇で拾い、折り返す。ち
ょうど名護あたりで夕食時となったので、早
「我部祖河食堂」に駆け込んだ。噂通りの
濃いスープが、麺によくからむ。ソーキが絶
妙の味。空腹だったので、ソーキ(特大)を
頼んだのだが、これがすごい量だった。何せ
ソーキが500gのTボーンステーキくらいある。
けして小食でないさすがの私も、何とか平ら
げたが、その後水も飲むことができなかった。
ちなみに、この写真は、うちの奥様が食べた
普通盛りです。特大の写真を撮っている余裕
がありませんでした。ソーキ(特大)\700-なり。


10月2日(火)
 今日も朝からFITの回収。ヤンバルエンマがボチボチ落ちる程度で、ろくな成果はなし。天気
は依然すっきりしないが、ようやく午後から晴れてきた。伐採地を探すがまったくない。地元の
方によれば、伐採をしても早く伸びる木を植え
るので、すぐに見えなくなるらしい。間伐林は
あるが、ダルマコガネを狙えるような場所は
見つけられなかった。夕食は、国頭の手前の
「山川軒」にて。ここは、自称ファミリーレストラ
ンということで、そばは可もなく不可もなくだっ
た。
 昨日よりの宿泊先が、JALプライベートリゾート
オクマで、食事がついていないことから、毎日
食べ歩くこととなった。ちなみにこのオクマリゾー
ト、シーズンオフのツアー価格だと、豪華朝食つ
きで東京のビジネスホテル程度の金額でコテー
ジに泊まれるのでお勧めである。やんばるくい
な荘の4500円には勝てないが・・・。

10月3日(水)
 FIT、羽毛、腐肉、糞と、かけてあるトラップを一通り見回りに
行く日課をこなすが、まったく冴えない。天気は良くなったが、
逆に湿度が落ちている。でも、日中林の中を歩く写真の個体
を発見。ラッキーなこともあるもんだ。写真は拉致した後に、道
路上で撮った記念撮影。これに気を良くして、その晩、マルバ
ネ採集に出かけるが、なんと寒くて車のヒーターをつけてしまっ
た! きっと15℃くらいだったに違いない。なんてことか。


10月4日(木)
 あまりに虫が採れないので、やけになって、今日は1日家族サービスと決め込んだ。恩名村
に遊びに行く途中、そばのネタ本では評価の高い「なかむらそば」にて昼食。ソーキが限定数

  

食しかないということであったが、そんな雰囲気はなかった。ソーキそばは、あっさりとした基本
型で旨いのであるが、逆に特徴もなく、優等生という感じ。アーサそば(写真右)という海草入り
のそばが名物で、こちらは変わりそばのせいか、なかなかグッドであった。

 夕食は、名護の「中山そば」へ。ここも地元では一番の評価の店であるが、峠のドライブイン
的な店構えにいささかの不安をいだく。しかし、これが非常にいけた。特に、自家製の平たいきし
めん風の麺が、こしがあってGOOD。化学調味料を使っていない、豚とカツオがベースのスープ

 

は、基本ながら絶妙。全体のバランスも良い。なぜか紅しょうがが乗っていなかったが、入れ忘
れたのか、調理場には山のように置いてあった。ここは、もう一度食べに行きたいと思った。
 この日は、そばばかり食っていたような印象があるが、篩い採集もちゃんと行い、タイケシマグ
ソなどを恩名村で採ったことを付け加えておこう。

10月5日(金)
 トラップが軒並み冴えないため、何とか念願のダルマコガネだけでも、と思い、ひたすら伐採地
を求めて林道を走り回ったが、ダメだった。貯木場を見つ
けたが、ここも材の乾燥が激しくダメ。海岸で数ヶ所適当
に篩いを入れると、何ヶ所かごく狭い場所で少数であるが、
ケシマグソを得ることができた。従来本島本土ではあまり
採れていないケシであるが、薄く広くいることが確認でき
た。やはり決め手は、写真のようなイネ科の雑草?である。
それに加え、下砂の細かさと湿り気がピッタリ合うと、タイケ
シ、サキシマケシともに、数頭程度が見つけられた。しかし、
瀬長島のように高密度でいる場所は、見つけることができ
なかった。


10月6日(土)
 実質、採集は最後に日となってしまった。伐採地を求めてさまよった結果、間伐だがまずまずの
伐採地を発見。ネブトクワガタの幼虫などが採れたが、ダルマやフトツツといった材性の糞虫たち
は、とうとう姿を見せてはくれなかった。与那の琉球大学の演習林にも行き、かなり材を探したが
とうとうダメであった。沖縄最後の晩は、オクマでワインを2本空けて、去り行く南国の夏を惜しんだ
のであった。

10月7日(日)
 午前中に全トラップを引き上げ、那覇に帰る途中、昼食に選んだ最後の店は、名護の名店「ブラジ
ル食堂」
であった。ここは名前の通り、ブラジル人がやっていて、そばも旨いがブラジル料理も旨い
らしい。ソーキそばを食べたが、二日酔いのせいか
あまり正当な味の評価ができるコンディションでは
なかったかもしれない。そんな状態での評価は、可
もなく不可もなく、といったところであろうか。
 この日は、夜7時の便で東京に帰ったのであるが、
那覇空港でも最後のそばを食べたのは言うまでも
ない。しかし、それはレポートには値しなかったことを
付け加えておこう。それに比べれば、ブラジル食堂の
そばは100倍旨いのである。

 さて、今回の沖縄本島そばツアーは、夢のそばには
巡り合わなかったものの、行き当たりばったりの割に
はまずまずの収穫を上げることができた。そばの情報、
虫の情報をいただいた方々には、大変お世話になり
ました。今回は何もお土産がなかったことをお詫びいたします。お土産は、このそばレポートに替えさせ
ていただきたいと思います。しかし、私の知人でそばにハマッテいる人が何人かいますが、わざわざ
そばだけを食べに沖縄に行く気持ちが、今回わかったような気がしました。次回は、地元の聞き込み
で、素晴らしいそば屋を発掘したいと思います。(完)



<番外編>
 先日、東京でもそばを食べに出かけました。やっぱり
本場に比べると、落ちましたね。沖縄が懐かしいです。