湯煙とマグソの九州紀行
2000年12月30日〜2001年1月3日
糞虫にどっぷり漬って以来、正月はそれほど食指の
動く糞虫がいないこともあって、
しばらく遠征はしていな
かったのだが、今年は早くから計画を立てていた。3年
前、125年ぶりに九州で再発見され、昨年発行のKOG
ANE No.1に発表された話題のキマダラマグソを自分の目
で見てみたいと思ったのは、私だけではあるまい。問題は時期で
あるが、同亜属の冬物の
消長パターンからして、数の多少は別としてまったく成虫が見られないことはないであろうと
の予測のもと、年の瀬も押し迫った30日の早朝、いざ福岡へと飛び立ったのであった。
2000年12月30日(土) 福岡から大分へ
羽田空港は、早朝にもかかわらず帰省ラッシュのピークで、そこかしこに長蛇の列が
でき、人で溢れかえっていた。それでも、若干の遅れで福岡に到着し、レンタカーで大
分を目指す。キマダラマグソは大分、宮崎、佐賀等でポツポツと見つかっており、まず
は別府に投宿して、温泉と採集を満喫しようという算段である。何せ新世紀の夜明け
を車中の野宿で迎えるのは、あまりにも寂しいからだ。出発前に地元のM氏にずうずう
しく
も連絡を取らせていただき様子を伺ったのだが、快く「都合がつけば案内しましょう」
と
言っていただき、感謝感激。大分到着後早々にM氏に連絡を取り、連れて行っていた
だい
た。以下、地元の方々の心情を察して、地名等は一切伏せさせていただくことをお
許し
下さい。
この日連れていっていただいた場所は、キマダラの記録が出た場所ではあるが、比
較的標高があるせいか、キマダラを見ることはできなかった。特に落葉樹林の環境で
は、すでに地面は降霜し糞があっても凍結という状態であった。しかし、九州産ははじ
めて手にするネグロ、チャグロ、マキバなどのマグソには出会うことができた。夜はM氏
のほかH氏、T氏までもが宿に来ていただき、地元の興味深い糞虫のお話を伺うことが
できて大変参考になった。遅くまで有難うございました。
2000年12月31日(日) 20世紀の採集納め
今年の、いや今世紀の採集締めになるため、今日は何としてでもキマダラマグソに出
会い
たいところである。T氏に連れていっていただいた場所は、昨日の環境とは異なり、
石灰岩
質の急斜面で、暖地系の照葉樹林的雰囲気の林であった。林に入ってすぐに
T氏の声が響いた。 「いましたよー!」駆け寄ってみると、タヌキの溜め糞に来ていた薄
黒いマグソがT氏の手のひらに乗っていた。暗い林内のせいもあって真っ黒に見えるが、
うっすらとオレンジ色のダンダラを確認できた。これが人目をはばかって永年見つかるこ
とがなかったキマダラマグソか、と感慨もひとしおである。早く自分でも手にしてみたいと、
気持ちばかりが前に行くが、良い糞が見つからない。そこはよくある里山的環境でイノ
シシやタヌキがいるようであるが、糞は新しかったり古かったりで、食べ頃のものがなか
なか見つからない。しばらくして、ようやく程良い状態のシシ糞を見つけ、無事キマダラ
とのご対面を果たすことができたのであった。午後は少し場所を移動して同じような環
境に入ったが、T氏は糞を見つけるのが非常にお上手で、ここでも最高のタヌキの溜め
糞を見つけられていて、あつかましくも一緒に採らせていただいた。他にはミゾムネとチ
ャグロが確認されたが、この時期圧倒的にキマダラが優先している感じであった。樹皮
下でクロツツが得られたことも付け加えておこう。
宿に帰って、地元の方々のご親切と今日の成果に感謝しながら、大分焼酎で祝杯を
上げたのは、 いつもの通りである。
2001年1月1日(月) キマダラマグソのお年玉
今日は大分を離れる日なのであまり時間がないことから、昨日の場所にかけておいた
マイトラップ
だけでも見て行こうと、同じ場所を訪れた。マイトラップは気温が低いせいか
1日では何も来ていなかったが、シシ糞で少々キマダラを追加することができた。昨日さ
んざん歩いた場所なのに明らかな見過ご
しがある。人間の目や感覚なんてそんな
ものだろう、なんて思いながら歩いてい
たら、恐ろしく状態の良いシシ糞を見つけ
た。人間の成人の落とし物くらいリッパな
もので、きっとこの低温期だから生産され
て1週間以上は経っているだろう。中はか
なり食べられて空洞になっている部分も
あり、キマダラ君が多数詰まっていた。
「これは良いお年玉だな」と感謝して、丁
寧に分解。自分では分からなかったが、車に戻るまで満面の笑みをたたえていたことで
あろう(収穫のあったときは顔でわかる、と昔からよく人に言われるのだ)。
この日は昼
より移動で、短かったが楽しかった大分を離れた。風が強いが、よく晴れた快晴の元旦
であった。
2001年1月2日(火)
この日は、移動しながら各地で気ままに篩いや樹皮はがし、そして大分での経験を生か
してキマダラ探しを行ったが、土地勘もなくこれといった成果は上がらなかった。難しいも
のだ。相変わらず風が強く寒いので、海岸での篩いも成果がないと根気が続かない。昔
の私であれば、クワガタの材採集にでも転戦したであろうが、今の私は早々に引き上げ、
宿で正月番組を見ることを選択 したのであった。
2001年1月3日(水)
今日は最終日。昨日が不甲斐ないものであったので、今日は体中に力が入っている。
というのも、今回のもう一つの目的である冬物マグソの王者クロモンマグソに出会える
かもし れないからだ。様々な事情から場所は書けないのであるが、結果は少しだけで
あるがクロモンに出会う夢が叶ったの
であった。クロモンマグソはセマダラと
混同されることもあるようだが、実際は
亜属が異なるので体型などはまったく
違う種類である。キマダラもそうである
が、この手の種類は斑紋に大きな個体
差が出るので、図鑑での絵合せ同定は
危険である。やはり体型、頭部、前胸、
点刻などを注意深く見るのが正しい同
定への近道といえよう。
このようにして、私の正月の九州マグソ遠征は終わりを告げた。今回は、キマダラの生
息環境を見ることができて、今後「季節」と「糞種」と「環境」の組み合わせ次第では、マ
グソコガネの新種の可能性は否定できないのでは?と深く考えさせられた旅であった。
虫以外の成果では、何といっても糞虫愛好家の輪が広がったことである。大分のMさん、
Hさん、Tさん、年末のお忙しい中本当にお世話になり有難うございました。また大阪の
Kさんにも九州の貴重な情報をいただき感謝いたします。次回は一度春に訪れてみたい
と思います。
(完)