長崎県対馬糞虫採集記
(2000年3月18〜20日)
三連休を利用して対馬に糞虫採集に行ってきました。「何
でこの時期に?」と思われる方も多いと思いますが、今回は
春出のマグソコガネの調査ということで、何が出るか分から
ない反面、何も採れないリスクも大きく、3日間という時間と
交通費を考えれば無謀とも思える企画でしたが、ツシマジカ
の糞の探索と砂篩いでのケシマグソの調査に主眼を置いて、
実に14年ぶりに対馬空港に降り立ったのは、3月18日の朝
のことでした。
3月17日(金) いざ対馬へ!!
出勤時に重いカバンを下げてコインロッカーへ入れ、何食わぬ顔で仕事をして、
終業後そのまま羽田へ向う。よくあるサラリーマン虫屋の遠征風景である。今回で
対馬は確か3回目。一回目はツシマカブリモドキを、2回目はキンオニクワガタを狙
って行ったが、いづれも学生時代のことで、話を聞いた限りでは当時よりも道路が
良くなりダムや公園ができ、拓けた様子。19:30羽田発で定刻21:15福岡着。博多
駅近辺のホテル泊。
3月18日(土) 出だし低調
福岡発朝一便で対馬入り。天気は快晴、気温も上々。早速レンタカー屋のバスに
乗り込むと後ろの席で、「チョウセンケナガニイニイは秋だよね?」とか「ヒメダイコク
は9月でいいのかな?」とか「対馬のオオセンチの記録は…Troxの記録は…」などの
会話が断片的に聞こえる。「ムムッ、何者?」と思いながら話しかけようとしたが、アッ
という間にレンタカー営業所につき、こちらがもたもた受付をしている間に先程の三人
組(釣り屋にも見えたが)は先に出発してしまった。まあいいか、篩い職人でもなさそ
うだし…。車に荷物を放り込み、まずは北部の
千俵蒔山麓の放牧地を目指す。登山口から井
口浜に下る道は土砂崩れで通行止め。でも、今
は海岸沿いに良い舗装道が一周しているので、
問題なく回り込めた。ヒメダイコクで有名な断崖
部の放牧地へ行くが、僅かな期待を裏切って古
い糞しか見当たらない。そこで、地元民から情
報を集め、佐護の部落の牛の持ち主を割り出し、
牛舎の牛から糞をもらい現場にまく。ついでに持
参した腐肉(鶏がら)も仕掛けた。この時点で14
時を回っていたため、本命の篩いをすべく比田
勝北部の三宇田海水浴場へ。なかなか美しい
浜で、砂の粒度や環境は良いが少々平坦過ぎ
るか。2時間ほど根際やゴミの下を篩ったが、ゾウムシなどの雑昆以外は僅かにヤマ
トケシマグソを1頭得たのみ。対馬の同種は以前木内信さんが記録されている(1997,
未発表)ので、新記録にはならない。夕暮れが迫ってきたので宿に戻る。宿は佐護の
部落に投宿。インターネットで調べたのだが、なかなか便利なので紹介しておきます
(対馬全島宿泊ガイド)。
3月19日(日) 山へ海へ
明け方豪雨だったが、何とか朝には雨も上がり8時前には宿を出た。今日は御岳に
登り鹿糞と樹皮下の糞虫を調べることにする。登山口の植林脇でマイトラップを作成し、
身も軽くなって登山開始。山頂まで1.8kmで登
山道というよりは遊歩道のように良く整備され
ており、昔の面影はない。植林もかなり進んで
いたが、山頂まで500mくらいの地点から上は、
昔通りの原生林が残っており嬉しくなった。早
速材を割るが出るのはコクワばかり。山頂付
近まで行くと、目的の鹿糞を見つけたが、昨年
のものばかり。尾根上で寝床や樹皮を剥がした
後などのフィールドサインを探すが、どうもこの時
期はまだ里山らしく、鳴き声すら聞けなかった。
山頂につく頃には晴れ間も出ていて、眼下に目
保呂ダムが見えた。ちょっと浮気をしてアカガシ
の芽をチェックする。対馬のキリシマミドリは今年は当り年らしいが、福岡の友人の蝶屋によ
ればあまり採れないとのこと。30分ほど探して僅かに2卵。これは絶対生んどるというような
芽にも無かったし、剪定の後も無かったので、自分の腕が悪
いことは棚に上げしておこう。さて、昼も近くなってきたので、
材を割りながら下山していくと、キンオニの良い材に当った。
まあまあサイズの終齢も出て満足。こいつは菌糸ビンで飼っ
てみよう。その前にちゃんとクロツツマグソとその幼虫らしきも
のも採ったことを付け加えておきます。また沖縄のクロカタゾ
ウムシに似ている対馬特産のツシマトゲヒサゴゴミムシダマ
シ(写真右)が沢山出たので珍しく採集。ついでに頭にY字型
の角のあるミツノゴミムシダマシ(写真左)も採集し、一時ゴミ
ダマ屋と化してしまう一幕もありました。
下山して遅い昼飯を食べ、前から目をつけておいた小鹿という部落へ行く。地名に動物
の名がついている場所でその動物を探すのは、糞虫採集の定石である。案の定、鹿ネッ
トが畑のまわりに張ってある。狙い通りだ。
ところが、何と狭い牛の牧場があるではな
いか。早速入れさせてもらい糞チェックする
が、昨夜の雨で軟便化していてまったくだめ。
諦めて林内に分け入り新しい鹿糞を見つけ
ることに成功したが、気温が低いせいか何
の虫もいなかった。その後、夕方まで上島
の砂浜を各所周るが、どこの浜も砂利だっ
たり汚れていたり護岸されていたり狭かった
りでダメ。しかし!夕方5時になって辿り着い
た場所で、ついにケシマグソの新記録が出
た。更に途中でもう一ヶ所の牧場を見つけ、
ここではタダマグソとヒメダイコクのエリトラ
を掘り出した。宿に戻ると日もとっぷりと暮れて、一人ビールと対馬焼酎”やまねこ”で乾杯し
たのは言うまでもない。
3月20日(月) 黄金の海岸
最終日である。幸い飛行機は19時発の最終便。天気は快晴。8時前には宿を出て、千俵
蒔山のトラップを回収、成果なし。急いで昨日の海岸に向う。途中道を間違えたり、道路が
通行止めだったりして時間を食ったが、9時
半頃には現場につく。早速篩い職人と化すが、
思うように出ない。そのうちツボが分かると
一篩いで数頭が出るようになり、更に篩い
落した砂の再篩いで同じくらいの数を得た。
どの世界でもツボを押さえると気持ちが良
い。午後は全海岸線を篩うが、ツボはそう
そう有るものではない。結果そこそこの数を
採り、環境写真を撮って一息つくと、すでに
4時を回っていた。空港まで着替えやパッキ
ングを含めて2時間近くかかるので、急いで
黄金の海岸を後にする。もしどこかが通行止
めだったりガス欠になったりしたら、飛行機
に乗り遅れてしまうので、安全運転で飛ばし
て行った。篩いのやり過ぎで握力が低下しており、ハンドルが重く感じる。もっと腕を鍛えなけれ
ば。しかし、何とか無事到着することができ、定刻19時忙しかった対馬の旅を終えて機上の人
となったのでした。
さて、今回のケシマグソの記録については、よく調べた上で発表する予定ですので、この駄
文中でのコメントは止めておきます。まあ、短期でありましたが、対馬の最新情報を色々仕入
れることができて、まずは成功でありました。意外とツシマジカやツシマテンが多いこと、絶滅
したはずのイノシシが最近増え始めたことなどが分かり、ツシマヤマネコの現状や牛馬のポ
イントも分かりました。次回は6月頃に鹿糞を探して行ってみたいと思います。最後に、個人名
は出しませんがポイントや宿や交通について教えて頂いた皆様、ご協力有難うございました。