篩い採集(砂篩い編)

 篩い採集は、主に海岸や河川の砂地に住む昆虫を採集する方法で、ゴミムシ
ダマシやエンマムシ、ゾウムシなど多数の砂地を好む虫が採れますが、糞虫では
主にケシマグソ類やニセマグソ類を採集する方法として、比較的最近(1980年代)
開発(応用)された方法です。


1.道具の選択
 篩いは、土木測量関係の専門のものから安いザルに至るまで様々ありますが、
コストや耐久性から考えて、家庭用のステンレス製の枠のしっかりしたものを選び
ます。重要な選択ポイントはメッシュで、2mmか1.5mmを使っている人が一般的で
す。2mmだと砂はよく通るのですが、アイヌケシなどの小型種はかなりの確率で
抜けてしまいます。ケシマグソの小型種は約2mmなので1.5mmメッシュだと大丈夫
かといいますと、入る角度によっては見事にすり抜けてしまいます。そこで、裏ごし
用の網(通常は0.8mmメッシュ程度)を使いますと、今度は砂が落ちない。結論とし
ては、1本でいくなら1.5mmメッシュ、できれば複数のメッシュを準備するに越したこ
とはありません。ちなみに篩いは思いの他過酷な使用をするので、意外に早く金属
疲労で亀裂が入ります。せっかく採集に出かけても、篩いが壊れてしまったら困り
ますから、必ず予備の篩いを車に積んでおきましょう。


2.環境の選択
 次は、篩う環境です。基本的には枯れた草の根際を植物ごと篩いにかけます。
植物に詳しくないのでスバリ種名は言えませんが、ケシマグソはイネ科のもの、ニ
セマグソは肉厚の葉っぱの植物がお好みのようです。さて、そうは言ってもその様
な場所は沢山ありますから、絞込む必要があります。経験的には水際からあまり
遠くなくて、少し小高くなった小さな砂丘の上部が良いです。浸水する場所には絶対
にいません。砂は細かめで、表面は乾燥していて、掘ると若干の湿り気を帯びるよ
うな場所、土が混じっても良いです。粒度が粗かったり砂のみだと、乾燥が早くて虫
が居つけないのでしょう。植物が生えているということは、それなりの水分補給があ
るということだと思います。虫採りは何でもそうですが、一見良い環境に見えても虫
一匹いないことがよくあります。そんな時はよく環境を分析すると、上記のどれかの
条件が抜けているものです。ちなみに沖縄などのサンゴ礁の島での篩いは、粒度
が粗く(水の引きが早く)苦労した経験がありますが、枯葉の下など保水力のある
場所を選べばうまくいきます。

 
  ニセマグソを産する良好な砂浜(茨城県)    ニセマグソはこの植物の根際に多い


3.テクニック
 実際篩いをやってみると、ゴミはあるし大きな石は入るしで、数ミリの虫を探すの
は一苦労です。ただ満遍なく篩うのでは効率が悪いので、私は次のような方法で
行います。まず、下に叩き網かシーツ(無い場合はナイロンのネットかタオル)を敷
き、その上に篩い落とします。頻繁に篩い下もチラチラと見ていると、意外にも網
をくぐり抜けた虫が落ちています。それから、篩いを一定に動かす度に、比重の重
たいものが下に来ます。つまり大型の木片やゴミが浮いてきて、砂が下に来ます
ので、その状態で上澄みを捨てます。草の根などは、あらかじめ手で砂を十分落と
して捨てましょう。また非常に見にくい場合や効率を上げたい場合は、バケツなど
に水を張って、その上に落とします。すると砂は沈んで虫の多くは浮きますので、
採りこぼしが減ります。バケツは間口が狭いので使いずらい時がありますが、私は
通常車にタライを積んでいますので、この方が僅かな水量で多くの水面を確保でき
楽です。旅行には折りたたみ式のバケツや、間に合わせで水溜りを利用したり、水
が確保できない場合は、砂をある程度篩った”エキス”の部分を持ち返り、家でゆっ
くりソートします。


4.採集時期
 概ね、本州では4〜5月くらいの春先が良いようです。交尾個体も見られることか
ら、一番活動的な時期なのでしょう。ただし真夏でも真冬でも採れることは採れます
し、ヤマトケシなどは真冬はほとんど採れませんし、南西諸島では冬場の方が良か
ったりしますから、場所や種によるところも大きいと思います。私の場合は、他の虫
のシーズン中は篩いはあまりやらずに、専ら冬の暇な時期の楽しみにしています。
冬の晴れた日に、房総や茨城の海岸にふらっと出かけて、脚を丸めたケシマグソ
に出会うことは、この上ない喜びとなっています。


5.ワンポイント
 海岸や河川の砂地は時として広大なため、時としてケシマグソ類はとても局所的
に生息しています。なので、第一に採れないからといって諦めないことが肝心です。
僅か1メートル四方の場所に100近い個体がいても、その僅か1m隣にいないことが
よくあります。第二に、こんな採集ですから、10採ったら5は見逃していると思ってよ
いと思います。その証拠に、篩い落とした砂をもう一度篩って出てきたことがよくあ
ります。第三に、種毎の好む環境や植物を把握して効率を上げましょう。それなくし
ては、大当たりはありません。それから、篩い以外の採集でも、Pit Fall Trapや糞へ
の集来、石おこし、群飛のネッティングで得られることも稀ではありません。色々と工
夫してみるとよいでしょう。



 
この木の根元30cm四方より、多数のアラメニ
 セマグソが得られた(長野県、標高1600m)


では、さっそく渓流へ河川敷へ海へ出かけてみましょう!