チョウの斑紋多様性と進化−統合的アプローチ−
関村利朗・藤原晴彦・大瀧丈二 監修, 2017.
A5, 375pp.(うちカラー16pp.), 上製本. 4,400円

藤岡知夫博士の「日本の蝶コレクション」が中部大学に寄贈されたことを記念して、2016年に国際研究集会「チョウの斑紋多様性の理解に向けた統合的アプローチ」が開催されました。
本書は、これをきっかけに出版された、研究集会の報告論文集です。
企画案が世界有数の学術出版社Springerに提出された際、複数の匿名研究者による評価を受けました。
下記はその一部です(本書の出版にあたってより抜粋)。

・チョウの斑紋研究は、遺伝学、発生学、進化学、生態学、そして数理モデル解析などを結び付け、統合化する非常に良い例を提供する。最近、チョウの斑紋の分子生物学、遺伝学分
野での新発見が相次いでおり、本書の著者の数人はその発見者でもありNature、 Nature Genetics、 Science など世界の主要科学雑誌で原著論文を数多く出版している。
・チョウの斑紋研究は、今後5年以内に大いに進展すると思われる。というのも、昆虫の分子生物学における最近の技術革新 (例えば、 low cost whole genome sequencing、 gene knock
out/down、 and genome editingなど) が、それを後押しするからである。本書はチョウの斑紋の統合的研究の進展に大いに貢献するのは間違いない。
・本書のトピックは時期を得たものである。チョウの斑紋の変異、生態学的役割、関連遺伝子の特定、突然変異体、翅の表現型の構造など、ここ最近20〜30 年間に非常に多くの研究がな
されてきた。しかし、チョウの斑紋に関する包括的書籍は、H。 Frederik Nijhout著“The Development and Evolution of Butterfly Wing Patterns”(Smithsonian Institution Press、 1991) 以
来ほとんど出版されていない。本書は、従来の発生生物学とチョウの系統分類学の本とは異なり、最新の分子生物学的結果と数理モデル解析などを含む包括的書籍であり、いま急速に
進展している新しい研究分野に貢献するユニークな本である。その出版を大いに歓迎する。

 


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<目次>

本書の出版にあたって                      関村利朗
ご挨拶                             飯吉厚夫
序 文                   関村利朗・H. Frederik Nijhout
監修者・責任著者・共著者・翻訳者一覧
口絵(カラー)

 I部 タテハチョウの斑紋の基本プラン (NGP) と多様化

1章 眼状紋と傍焦点要素の共通の発生起源そして色模様形成の新たなモデル機構
                 H. Frederik Nijhout(翻訳:岩田大生・大瀧丈二)
  要 約
  キーワード
  1-1 はじめに
  1-2 眼状紋と傍焦点要素
  1-3 温度ショック実験の不可解な結果
  1-4 色模様形成モデル
  1-5 グラスファイア・モデル
  1-6 基本パターン
  1-7 翅脈模様と翅脈間模様
  1-8 NotchとDistal-lessの一連の発現過程に関するシミュレーション
  1-9 傍焦点要素の形状
  1-10 眼状紋と傍焦点要素の融合と分離
  1-11 色模様進化の様式
  謝 辞
  引用文献

2章 ジャノメチョウ亜科 (ジャノメチョウ科) の初期系統における色模様多様性の探求
                     Carla M. Penz(翻訳:大瀧丈二)
  要 約
  キーワード
  2-1 はじめに
  2-2 前翅と後翅における中央対称系の転置
  2-3 後翅腹側の眼状紋の変異
  2-4 要素fとgの間の色帯
  2-5 性的二型と擬態
  2-6 透明性
  2-7 結 語
  謝 辞
  付録 検討された種類のリスト
  引用文献

3章 基本プランという主題が奏でる擬態という変奏          鈴木誉保
  要 約
  キーワード
  3-1 はじめに
  3-2 基本プラン (NGP) の形態学的基礎
  3-3 進化のパス:枯葉擬態模様の漸進進化ステップ
  3-4 ブリコラージュ性:枯葉葉脈模様を作り出す柔軟なロジック
  3-5 モジュラリティー:NGPの発生モジュールと単純な隠蔽擬態模様
  3-6 新規モジュールの進化的創出:NGP発生モジュールの再編成による
     機能モジュールの起源
  3-7 今後取り組むべき研究プログラム
  謝 辞
  引用文献

4章 形態進化はシグナルリガンド遺伝子への変異を繰り返し利用する
           Arnaud Martin・Virginie Courtier-Orgogozo(翻訳:鈴木誉保)
  要 約
  キーワード
  4-1 はじめに
  4-2 Gephebase:遺伝子型−表現型の関係を記したデータベース
  4-3 方法:Gephebaseの構築およびシグナル遺伝子の同定について
  4-4 四足動物のメラニン合成を体全体で変更する遺伝子群
  4-5 シス制御の進化は特定の部位での色彩変化を引き起こす
  4-6 最近起きたトゲウオの淡水への適応はリガンド遺伝子座を繰り返し
      利用している
  4-7 Wntタンパク質は翼にのって
  4-8 リガンド遺伝子のモジュール性は種間の違いをもたらす
  4-9 どのように,いつ,なぜ,リガンド遺伝子群はパターンの違いを
      生みだせるのか,あるいは,生みだせないのか
  4-10 総合:かたちの変化に関わるリガンド遺伝子の変化は,シス制御の
      改変を伴い,複雑で複対立遺伝的である
  4-11 結 論
  謝 辞
  引用文献
 
 II部 眼状紋と進化

5章 アフリカヒメジャノメ属のチョウにおける翅模様可塑性の生理学と進化:
    文献の批判的総説      Antonia Monteiro(翻訳:岩田大生・大瀧丈二)
  要 約
  キーワード
  5-1 はじめに
  5-2 眼状紋の可塑性に関する生理学的メカニズム
  5-3 可塑性の進化
  5-4 集団全体と種全体にわたる可塑性
  5-5 結 論
  謝 辞
  引用文献

6章 チョウの翅の目玉模様の数と位置はどう決まるか?
     −反応拡散方程式の境界条件が数と位置を制御する?−
                    関村利朗・Chandrasekhar Venkataraman
  要 約
  キーワード
  6-1 はじめに
  6-2 数理モデルの構築
  6-3 コンピュータ・シミュレーションの近似法
  6-4 結 果
  6-5 結果のまとめと検討
  引用文献

7章 自己相似,歪曲波,そして形態形成の本質:チョウの翅の色模様形成の一般原理
                                   大瀧丈二
  要 約
  キーワード
  7-1 はじめに
  7-2 植物と動物の自己相似
  7-3 色模様の法則
  7-4 誘導モデルに達するのための形式モデル
  7-5 誘導モデル
  7-6 倍数性,カルシウム波,物理的歪み
  7-7 一般化と本質
  謝 辞
  引用文献

 III部 斑紋の発生遺伝学

8章 鱗翅目におけるゲノム編集ツールCRISPR/Cas9の実践ガイド
                 Linlin Zhang・Robert D. Reed(翻訳:近藤勇介)
  要 約
  キーワード
  8-1 はじめに
  8-2 鱗翅目でのCRISPR/Cas9によるゲノム編集の実例
  8-3 実験デザイン
  8-4 胚への注射
  8-5 体細胞モザイクの判定
  8-6 ジェノタイピング
  8-7 今後の展望
  謝 辞
  付録 ヒメアカタテハに対するCRISPR/Cas9ゲノム編集の詳細な例
  引用文献

9章 ドクチョウ属の翅パターンに関する遺伝学的研究から適応について何が分かるのか?
                       Chris D. Jiggins(翻訳:依田真一)
  要 約
  キーワード
  9-1 赤色を制御するoptix遺伝子座
  9-2 黄色を制御するcortex遺伝子座
  9-3 形を制御するWntA遺伝子座
  9-4 その他の遺伝子座が表現型に及ぼす影響
  9-5 量的解析
  9-6 非遺伝的効果と可塑性
  9-7 効果サイズの分布
  9-8 スーパージーンと多形性
  9-9 結 論
  引用文献

10章 シロオビアゲハのメス限定ベイツ型擬態の分子機構と進化     藤原晴彦
  要 約
  キーワード
  10-1 研究背景
  10-2 アゲハゲノムプロジェクトはdsx近傍のH遺伝子座と染色体逆位を明らかにした
  10-3 H遺伝子座の連鎖解析
  10-4 H遺伝子座の長いヘテロ領域の詳細な構造
  10-5 Hとhに対応したDsxの二型構造
  10-6 H遺伝子座の逆位領域近傍の遺伝子発現の特徴
  10-7 dsxの機能解析
  10-8 メスに限定されたベイツ型擬態の進化
  引用文献

 IV部 チョウの生態学と適応

11章 毒チョウの化学生態学:モデルかミミックか?
      −ミュラー型擬態における性的二型のパラドックス−     西田律夫
  要 約
  キーワード
  11-1 はじめに
  11-2 カバマダラミミクリー・リング
  11-3 オオゴマダラミミクリー・リング
  11-4 ジャコウアゲハミミクリー・リング
  11-5 総合考察
  謝 辞
  引用文献

12章 先島諸島におけるシロオビアゲハの個体数変動に関する数理モデル (II)
                         関村利朗・鈴木憲幸・竹内康博
  要 約
  キーワード
  12-1 はじめに
  12-2 先島諸島におけるシロオビアゲハの観察と記録データ
  12-3 シロオビアゲハの個体数変動に関する拡張数理モデル
  12-4 システム方程式系の数理解析とコンピュータ・シミュレーション
  12-5 結果のまとめと今後の課題
  引用文献

13章 タテハモドキ族 (タテハチョウ科) における季節多型に関わる表現型要素の
      進化的なトレンド         Jameson W. Clarke(翻訳:鈴木誉保)
  要 約
  キーワード
  13-1 はじめに
  13-2 方 法
  13-3 結 果
  13-4 議 論
  謝 辞
  引用文献

14章 チョウにおける野外オスの交尾歴推定法
             佐々木那由太・小長谷達郎・渡辺 守・Ronald L. Rutowski
  要 約
  キーワード
  14-1 はじめに
  14-2 材料と方法
  14-3 結 果
  14-4 考 察
  謝 辞
  引用文献

 V部 チョウの幼虫,他の昆虫の色模様

15章 ナミアゲハ幼虫の体色と模様切り替えの分子機構   金 弘渊・藤原晴彦
  要 約
  キーワード
  15-1 はじめに
  15-2 ナミアゲハ幼虫のクチクラの着色
  15-3 幼虫皮膚の着色のホルモン制御
  15-4 アゲハチョウ属における種特異的な体色パターン
  15-5 結論と将来の展望
  引用文献

16章 模様形成の仕組みを明らかにするためのモデルシステムとしての
      ミズタマショウジョウバエ        越川滋行・福冨雄一・松本圭司
  要 約
  キーワード
  16-1 はじめに
  16-2 ミズタマショウジョウバエの系統的位置
  16-3 ミズタマショウジョウバエを用いた食性,毒耐性,行動の研究
  16-4 模様の進化の様相
  16-5 ショウジョウバエの翅の模様形成
  16-6 ミズタマショウジョウバエの翅の模様とその特徴
  16-7 ミズタマショウジョウバエのwingless遺伝子は模様形成を誘導する
  16-8 wingless遺伝子のシス制御領域の進化
  16-9 キイロショウジョウバエの翅に人工的に着色を起こす試み
  16-10 模様形成における多様性と一般性
  謝 辞
  引用文献

17章 トンボの色覚と体色の多様性に関わる分子機構          二橋 亮
  要 約
  キーワード
  17-1 はじめに
  17-2 相手の認識におけるトンボの体色の重要性
  17-3 カワトンボ属の翅色多型と形質置換
  17-4 トンボにおける多数のオプシン遺伝子の同定
  17-5 トンボの種間のオプシン遺伝子の多様性
  17-6 アカトンボの体色変化メカニズム
  17-7 おわりに
  謝 辞
  引用文献

事項索引
生物名索引


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